2022年10月20日
不動産売却における税金大全!仕組み・特例・シミュレーションあり
不動産売却にかかる税金は、譲渡所得税(所得税・住民税)です。
売却する不動産によっては税額が高くなりやすい税金のため、仕組みを理解することが大切です。
ただし、マイホームを売却する際は特例制度を利用できる可能性があります。制度を上手に活用して、税金の負担を抑えましょう。
ここでは、以下のポイントに沿って譲渡所得税の仕組みを解説します。
【譲渡所得税のポイント】
・課税対象は売却価格ではなく「譲渡所得」
・所有期間で税率が変わる(5年超えor5年以下)
・建物は減価償却が必要
・譲渡所得税は、利益が出たときにかかる税金
・不動産売却後、確定申告した方が良いケースが多い
ケース別のQ&Aやシミュレーションを交えながら解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
不動産売却にかかる税金とは?仕組みやポイントを解説
不動産売却にかかる税金は、譲渡所得税(所得税・住民税)です。
譲渡所得税の仕組みを知るうえで大切なポイントは、税金の対象が「譲渡所得」ということ。
売却価格に対して課税される税金ではありません。
ここでは、譲渡所得税の仕組みや計算方法を順番に解説します。
譲渡所得・譲渡所得税の仕組み
譲渡所得税とは何かを簡単にお伝えすると、以下のように買った金額と費用の合計額よりも、売った金額が多い場合にかかる税金ということです。
上記のように計算して譲渡所得(利益)が生じた場合に、確定申告によって納税します。
つまり、譲渡所得税を計算する前に譲渡所得を計算し、譲渡所得に税率を掛け算して税額を算出する仕組みです。
ここまでの説明を図にすると以下の通りです。
譲渡所得・譲渡所得税の計算方法
譲渡所得・譲渡所得税は以下のように計算します。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得税=譲渡所得×税率※
※税率については後ほど解説します。
【取得費:購入時にかかった金額】
<例>
・土地や建物の購入代金
・仲介手数料
・登録免許税
・不動産取得税
【譲渡費用:売却時にかかった費用】
<例>
・仲介手数料
・印紙税
・建物の解体費
上記の計算でプラスになれば、その金額に対して譲渡所得税が課税されます。マイナスになった場合は税金がかかりません。
【譲渡所得税の税率】ポイントは不動産の所有期間
譲渡所得税の税率は、所有期間が5年超えか5年以下で大きく異なります。そのため、不動産を売却する際は、不動産の所有期間がポイントです。
所有期間が5年を超えた不動産売却時に生じる所得を「長期譲渡所得」、所有期間が5年以下の不動産売却時に生じる所得を「短期譲渡所得」と呼びます。
※別途、算出した所得税×2.1%の復興特別所得税がかかりますが、ここでは省略しています。
注意点は、所有期間の基準が1月1日である点です。購入時期を基準にして所有期間が5年を超えていても、1月1日を基準にして5年を超えていないと、短期譲渡所得の税率が適用されます。
建物は減価償却が必要
譲渡所得を計算する際、建物の取得費もポイントです。取得費とは、土地・建物の購入代金や購入にかかった費用のことです。
土地の購入代金は、そのまま取得費に加算できますが、建物は減価償却をしてから加算します。
【減価償却とは?】
減価償却とは、建物のように築年数が経つと劣化する資産について、価値が下がった分を差し引くことです。
たとえば、10年前に2,000万円で購入した建物の価値は2,000万円ではなく、2,000万円-減価償却費として計算します。
減価償却費の計算方法は以下の通りです。後ほどシミュレーションで解説するので、そちらも併せてご確認ください。
【減価償却費の計算方法(マイホームの場合)】
建物の減価償却費=建物の購入価格×0.9×償却率×経過年数
【譲渡所得税に関するQ&A】相続した不動産の取得時期など
譲渡所得税を計算したくても、取得費がわからなかったり、相続した不動産の売却だったり、状況によって迷うケースがあるでしょう。
ここでは、譲渡所得税に関するQ&Aを3つご紹介します。気になる項目をチェックしてみてください。
Q 取得費がわからないときの計算方法は?
A 取得費がわからない場合、売却価格×5%を取得費として計算できます。
例:売却価格が2,000万円の場合、取得費は100万円です。(2,000万円×5%)
Q 相続した不動産を売却したい!取得時期はいつになるの?
A 相続した不動産を売却する場合、取得時期や取得費は被相続人のものを引き継ぎます。
たとえば、相続したばかりの不動産でも、被相続人の所有期間が5年を超えていれば、長期譲渡所得とみなされます。
取得費についても、被相続人が購入した時の価格を基準に計算する仕組みです。
Q 確定申告は必須なの?
A 不動産売却時に確定申告が必要なケースは、譲渡所得が生じた場合になります。譲渡所得が生じなければ確定申告しなくてもOKです。
ただし、譲渡所得に関する特例制度を利用する場合は確定申告が必要です。(特例制度については後述します)
特例制度を利用すると税金の負担を軽減できるため、確定申告した方が良いケースがほとんどです。
【確定申告が必要な方】
・譲渡所得が生じた方
・譲渡益に関する特例制度を利用する方
【確定申告した方が良い方(義務ではありません)】
・譲渡損失に関する特例制度を利用する方
不動産売却時の税金に関する特例制度(マイホームの場合)
不動産売却にかかる税金には、特例制度が設けられています。ここでは、譲渡益が生じた場合・譲渡損失が生じた場合に分けてご紹介しましょう。
※譲渡益は譲渡所得の計算でプラスになった場合の利益、譲渡損失はマイナスになった場合の損失を指します。
譲渡益が生じた場合の特例
マイホームを売却して譲渡益が生じた場合、以下の特例制度を利用できる可能性があります。
【譲渡益が生じた場合の特例】
・3,000万円特別控除
・長期譲渡所得の軽減税率
【3,000万円特別控除】
マイホームを売却して譲渡益が生じた場合、最大3,000万円を控除できる特例制度。
【長期譲渡所得の軽減税率】
所有期間が10年を超えるマイホームを売却して譲渡益が生じた場合、一定金額まで税率が軽減される制度。
具体的には、6,000万円までの譲渡益に対する税率が14%(本則は20%)になります。
譲渡損失が生じた場合の特例
譲渡益が生じない場合は原則、確定申告不要です。ただし、以下の特例制度を利用できる可能性があるため、確定申告すると税金の負担を軽減できます。
【譲渡損失が生じた場合の特例】
・譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
(マイホームを売却して損失が生じた場合、マイホームを買い換えて損失が生じた場合)
「譲渡損失の損益通算」とは、所有期間が5年を超えるマイホームを売却して譲渡損失が生じた場合、損失額を他の所得から控除できる特例です。
この制度を利用できると、給与所得の黒字を減額して、税金の負担を軽くできる可能性があります。
このように、所得の赤字と黒字を相殺することを「損益通算」を呼びます。損益通算できなかった損失は、翌年以降に繰り越して計算できます。
ただし、特例の適用を受けるためには「住宅ローンの残債があること」が条件です。
不動産売却にかかる税金・譲渡所得税のシミュレーション
ここでは、譲渡所得税の計算方法をシミュレーションで解説します。
シミュレーションでは、前章で解説した特例制度「3,000万円特別控除」を利用する場合と利用しない場合で計算しています。
【シミュレーション結果】
(1)3,000万円特別控除を利用する場合の譲渡所得税:0円
(2)特別控除を利用しないの場合の譲渡所得税:2,175,390円
【不動産売却時の条件】
売却価格:5,000万円
譲渡費用:250万円
所有期間:20年
【購入時の条件】
土地の購入価格:2,500万円(諸費用を含む)
建物の購入価格:1,500万円(別途諸費用:75万円)
木造一戸建て(償却率0.031)
STEP1:建物を減価償却し、取得費に加算できる価格を算出する
建物の購入価格と諸費用の合計は1,575万円。
減価償却費を計算すると8,788,500円です。
取得費に加算できる価格は6,961,500円になります。
減価償却費=建物の購入価格×0.9×償却率×経過年数
8,788,500円=(1,500万円+75万円)×0.9×0.031×20年
6,961,500円=(建物の価格1,500万円+諸費用75万円)-減価償却費8,788,500円
STEP2:土地・建物の取得費を計算する
土地・建物の取得費を合計すると、31,961,500円です。
取得費31,961,500円=土地の取得費2,500万円+建物の取得費6,961,500円
STEP3:譲渡所得を計算する
STEP2で計算した取得費とシミュレーションの条件をもとに譲渡所得を計算した場合、15,538,500円になります。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
15,538,500円=50,000,000円-(31,961,500円+2,500,000)
STEP4:譲渡所得税を計算する
譲渡所得税を計算すると、税額は以下の通りです。
(1)3,000万円特別控除を利用する場合:0円(STEP3の譲渡所得-最大3,000万円)
(2)特別控除を利用しない場合:2,175,390円
(2)の計算方法
譲渡所得税=譲渡所得×税率
2,175,390円=15,538,500円×14%※
※所有期間が20年のため、長期譲渡所得の軽減税率が適用されます。
※本来は復興特別所得税も課税されますが、ここでは省略しています。
不動産を売却したら、確定申告を忘れずに!
不動産を売却して譲渡益が生じた場合、譲渡所得税の納税義務が生じます。
譲渡益が生じない場合は、確定申告の義務がありません。
ただし、特例制度を利用するには確定申告が必要です。
特例制度によって税金の負担を軽減できる可能性があるため、不動産を売却したら忘れずに確定申告をしましょう。
確定申告は、申告時期や対象となる期間が決まっています。概要を以下にまとめているので、参考としてご覧ください。