2021年10月14日
家賃収入にかかる消費税の課税・非課税とオーナーに関わる2つの制度
家賃収入にかかる消費税は、居住用物件は非課税、事業用物件は課税対象であるケースが一般的です。
ただし、借主へ請求する際の名目や不動産の種類などによって課税・非課税のルールが異なります。
消費税の制度は複雑で混乱を招きやすいため、一つ一つ確認しながら判断することが大切です。
また、事務処理の負担を軽減できる「簡易課税制度」や令和5年10月から始まる「インボイス制度」など、賃貸経営者にとって大切な消費税に関連する制度があります。
家賃収入の課税・非課税と併せて、これらの制度もチェックしておきましょう。
目次
家賃収入にかかる消費税は課税?非課税?
居住用物件の家賃収入にかかる消費税は非課税、事業用物件の家賃収入にかかる消費税は課税対象です。
なぜ事業用だけが課税対象になるのかは、消費税の仕組みを理解するとわかりやすいでしょう。
消費税は、特徴ごとに以下4つの課税区分に分かれます。
課税区分 | 特徴 |
課税 | 商品の売買、貸し借りなどを国内で事業として行う取引 |
非課税 | 社会的配慮から課税することが好ましくないと判断された取引 |
免税 | 国外での消費など消費税が免除される取引 |
不課税 | 給与、保険金、寄付など消費税の対象外の取引 |
消費税は、国内で事業として行う商品やサービスの販売などに対して課税される税金です。
消費税導入当時は居住用物件の家賃収入も課税対象でしたが、課税することが好ましくないと判断され、平成3年から非課税となっています。
ただし、事業用物件でも社宅は非課税、居住用でも1ヶ月未満の契約は課税対象など細かい条件があるので、次の章から詳しく解説します。
そもそも消費税とは?
消費税とは、物やサービスの販売などの取引に対して課税される税金です。
実際に税金を負担するのは消費者(賃貸物件の場合「借主」)ですが、実際に納税するのは事業者(賃貸経営の場合「貸主」)です。
消費税は、税金を負担する人と納税者が異なるため「間接税」と呼ばれています。
家賃収入にかかる消費税を徴収した場合の納税義務
家賃収入にかかる消費税は、借主が貸主に消費税を支払い、貸主が確定申告で納税する仕組みです。
しかし、貸主が確定申告を行う年の前々年の課税売上高※が1,000万円以下の場合、消費税の納税義務が免除されます。
※課税売上高:消費税がかかる取引の売上高の合計
このように消費税の納税を免除されている事業者を「免税事業者」、消費税を納税する義務がある事業者を「課税事業者」といいます。
課税売上高が1,000万円かどうかの期間の基準は、個人の場合1月1日~12月31日、法人の場合事業年度です。
今年度の消費税の納税義務があるかどうかは、前々年の基準期間の課税売上高を確認してみましょう。
賃貸経営者の納税義務の有無を一覧表でチェック
以下の表は、家賃収入にかかる消費税について、賃貸経営者の納税義務の有無をまとめたものです。
家賃収入の課税・非課税と賃貸経営者の納税義務の有無
課税売上高 | 課税・非課税 |
賃貸経営者の 納税義務 |
||
居住用 |
契約期間1ヶ月以上 | 1,000万円未満 | 非課税 | 無 |
1,000万円超 | 非課税 | 無 | ||
契約期間1ヶ月以下 | 1,000万円未満 | 課税 | 無 | |
1,000万円超 | 課税 | 有 | ||
事業用 | 1,000万円未満 | 課税 | 無 | |
1,000万円超 | 課税 | 有 |
家賃収入にかかる消費税のポイントは、以下2点です。
- 対象の不動産が居住用か事業用か
- 賃貸経営者の課税売上高が1,000万円未満か1,000万円超えか
例えば、事業用物件を賃貸して家賃収入を得ている場合、借主に対して消費税が課税されますが、貸主の課税売上高が1,000万円未満であれば納税義務がありません。
現行では、賃貸経営者に納税義務がない場合でも、課税対象の物件であれば借主に消費税を請求できます。
ただし、令和5年から始まる「インボイス制度」の影響でルールが変わるため、注意が必要です。「インボイス制度」の詳細は、後ほど詳しく解説します。
また、事業用と居住用両方の家賃収入がある場合、事業用の家賃収入が1,000万円を超えると課税義務が生じます。
賃貸経営の収入にかかる消費税の課税・非課税の具体例
前章までは、居住用・事業用に焦点をあてて大まかに課税・非課税を解説しました。しかし、実際は不動産の条件や種類ごとに細かいルールがあります。ここでは、細かいルールを含めた課税・非課税の具体例を紹介します。
居住用物件に関連する収入
以下のような、居住用物件に関連する収入は非課税です。
- 契約が1ヶ月以上の居住用物件の家賃
- 家賃に含まれている共益費
- 敷金(返還しない場合)、更新料など住宅の貸付に伴って発生する費用
- 住宅と一体となって貸付されている家具、家電の料金
- 賃料に含まれ、入居者のみが利用できるプール・温泉施設等の設備費用
居住用物件とは、契約書に「居住用」の旨が明記されていて、契約期間が1ヶ月以上の物件です。
短期の契約は居住用とみなされないため、契約期間が1ヶ月未満の場合は用途が居住用でも消費税の課税対象になります。
また、旅館、ホテル、ウィークリーマンションなどは利用期間が1ヶ月以上でも非課税にならないため注意が必要です。
共益費や設備費用等は、「水道光熱費」など家賃と名目を分けて徴収する場合、課税対象になります。
上記の他、集合住宅の費用に関する課税・非課税は国税庁の公式サイトで詳しく解説されているので、こちらでご確認ください。
集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定|国税庁 (nta.go.jp)
駐車場の貸付による収入
賃貸物件に付設された駐車場は、以下の条件を満たせば非課税です。
- 車の所有の有無に関わらず、1戸あたり1台以上のスペースがある
- 駐車場料金と賃料を分けて徴収していない
上記に該当せず、「駐車場利用料」など家賃と分けて請求している場合は課税対象です。
土地や土地と建物の貸付による収入
土地(更地)の貸付は本来、消費税非課税ですが、土地の上に建っている事業用の建物を貸し出す場合、課税対象になります。契約書に土地と建物を区分している場合でも、土地部分のみを非課税にすることはできません。
また、建物と同じく、契約期間が1ヶ月未満の土地の貸付も課税対象です。
事業用物件・店舗等併設住宅の場合
貸店舗や貸事務所などの事業用物件は、基本的に消費税の課税対象です。ただし、事業者が社宅として借り上げる場合、契約書に社宅の旨が明記されていれば非課税になります。
また、1階が店舗、2階が居住用など店舗併設住宅の場合、店舗部分は課税対象、居住部分は非課税です。
賃貸経営者が知っておくべき【簡易課税制度・インボイス制度】
確定申告で家賃収入にかかる消費税を納税するためには、自分で計算をする必要があります。その際の計算の負担を軽減する制度として「簡易課税制度」があります。
また、令和5年10月から始まる「インボイス制度」は、現在、事業者向けに物件を賃貸している免税事業者である賃貸経営者にとって関連性の高い制度です。
これらの制度について内容を確認しておきましょう。
事務処理の負担を軽減できる【簡易課税制度】
簡易課税制度とは、消費税を納税する中小企業や個人事業主の事務処理の負担を軽減するために、課税金額の計算を簡略化できる制度です。
前々年の課税売上が5,000万円以下の場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出することで制度を利用できます。手続きの詳細は、国税庁の公式サイトでご確認ください。
課税事業者が消費税の納付税額を計算するためには、原則、課税売上にかかる消費税額(入居者から預かった消費税)から課税仕入れ等にかかる消費税額(自分が支払った消費税)を控除して計算します。
すべての取引で消費税を計算するのは手間がかかるため、簡易課税制度の「みなし仕入率」を使用し、課税仕入れ額を概算で計算できます。
みなし仕入率を利用して消費税の納付税額を計算する方法は、以下の通りです。(不動産事業の場合)
消費税の納付税額=(課税売上高×10%)―(課税売上高×消費税率10%×みなし仕入率40%※)
※みなし仕入れ率は、業種によって割合が異なります。不動産業以外の割合は、国税庁の公式サイトをご確認ください。
(No.6505 簡易課税制度|国税庁)
例:課税売上高2,000万円の場合
消費税の納付税額120万円=(2,000万円×10%)―(2,000万円×10%×40%)
令和5年10月から始まる【インボイス制度】
インボイス制度とは、令和5年10月1日から導入される制度です。
インボイス制度が導入されると、売り手が買い手にインボイス(適格請求書)を求められたとき、インボイスを交付しなければいけなくなります。インボイスとは、売り手が買い手に対して正確な適用税率、消費税額等を伝えるための書類やデータです。
インボイスを発行するには、課税事業者になり、税務署に「適格請求書発行事業者」として登録する必要があります。
事業者向けに物件を賃貸しているオーナーで、現在免税事業者の場合、インボイス制度の影響を受ける可能性があるため、制度について確認しておきましょう。
インボイス制度の導入で賃貸経営者が受ける影響とは?
インボイス制度が導入された場合、インボイスの発行ができない賃貸経営者の物件から、借主である法人や個人事業主が退去してしまうことが予想されます。
「簡易課税制度」でも解説した通り、課税事業者が納める消費税額は、預かった消費税額から支払った消費税額を控除して計算します。
借主である法人や個人事業主の立場からすると、現行では取引相手(賃貸契約での貸主)が免税事業者でも、家賃に上乗せされている消費税を仕入税額控除できました。
しかし、インボイス制度が始まると、貸主が免税事業者の場合、インボイスが発行されないため税額控除できず、納める消費税額が多くなってしまいます。
借主にとって家賃は経費の中でも大きくな割合を占めるケースが多いため、税額が増えると借主の負担が大きくなります。
そのため、借主からインボイスの発行を求められる場合があり、対応できなければ退去されてしまう可能性があるでしょう。
ちなみに、「適格請求書発行事業者」の登録は2021年10月から始まっています。
賃貸経営者が課税事業者になっても「簡易課税制度」を利用して節税できる場合があるため、不動産会社や税理士等、専門家に相談してみるのも選択肢の一つです。
まとめ
家賃収入にかかる消費税は、基本的に居住用は非課税、事業用は課税対象です。
ただし、消費税の細かいルールは条件によって異なるため、判断に迷った場合、税理士等専門家に相談することをおすすめします。
不動産会社でも個別相談やセミナーで質問できる機会があるので、インボイス制度などこれから導入される制度についても相談してみてくださいね。
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